「無理かな」→「できるかも!」3Dプリント作品を2年かけて100個以上売るまでの記録

FabScene(ファブシーン)

趣味で作った3Dプリント作品が、気づけば100個以上売れていました。華々しい成功とは言えません。2年ほどかかっているし、その途中も、失敗したり、キャパオーバーしたり。それでも、少しずつ設計と運用を改善しながら、「細く長く売れる」形にたどり着きました。今では自分のものづくりを費用面、モチベーション面で支える一助となっています。

この記事は、3Dプリンターで作った編み機を個人で販売し、100個売れるまでの、失敗も含めた記録です。これから何かを売ってみたい個人メイカーの参考になれば幸いです。

目次

売っているのは3Dプリント製の「筒編み機」

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Makerとして私が販売しているのは小さな筒編み機です。毛糸をセットし、本体をひねって回すと、筒状の編み物ができる仕組だ。本体は3Dプリント製、その他に金属の針やねじなどを組み合わせています。

2024年10月からネットのみで販売を開始し、2026年現在完成品の販売数は137個、ダウンロードでの販売数が31個です。販売数の推移は以下の図の通り。

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ここから先は、この販売の歴史を振り返ります。

「売らないんですか?」に答えられなかった

2023年ごろ、趣味の編み物のために、手回しで靴下を編む機械を3Dプリンターで自作。Maker Faire Kyoto 2023で展示をしたところ、「これ、販売しないんですか?」という声をいただきました。

ありがたい反面、正直「売るのって大変なんだぞ……」という気持ちがわきました。パーツは大きく、印刷時間もコストもかかる。しかも当時のモデルは、まだ使いにくい部分も多く、とても販売できる品質ではありませんでした。そのため、この時点では販売はしたいけど、無理だと思っていました。

体験用に小さく作り直したら、心も軽くなった

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Maker Faire Tokyo 2024の様子。大きい靴下編み機に加え小さなミニ筒編み機を展示

翌年、大きいモデルでは編むのに時間がかかるため、体験向けに小型の編み機を設計しました。できるだけ構造をシンプルにし、編む仕組みがわかりやすいようにしたモデルです。

Maker Faire Tokyo 2024で展示したところ、1人だけ「売らないんですか?」と声をかけてくれた人がいた。当時は、ただ筒状の編地が作れるだけで、具体的な作品例もありません。それでも興味を持ってくれる人がいることに驚きました。

「これなら作るコストが低いし、欲しい人も少なそうだし、気軽に販売してもいいかもな」。そんな気持ちになり、重い腰を上げて販売に向けて動き出しました。

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実際に動かせるミニ編み機は展示の中でも好評だった

「データ公開」か「完成品販売」か――欲しい人の顔を想像する

販売前にもんもんと悩んでいたのが、「データを無料公開するか、製品として売るか」。この問題だった。データを公開して「作りたい人は勝手に作ってね」とすれば太っ腹感があってかっこいいし、責任も軽い。一方販売となると、お金をもらう以上、サポートや品質管理が発生します。材料を集めて印刷して組み立てて……すぐ壊れちゃったらどうしよう……。正直面倒に感じました。

ただ、これを欲しい人の顔を想像すると、編み物をしたい人であって、3Dプリンターを持っている人ではありませんでした。仮に持っていたとしても、追加部品を集める必要があります。「データだけ公開しても、たぶん誰も作らないだろう」と思いました(後に必ずしもそんなことはないのもわかるのですが)。

そして、正直なところ、「お金ほしい!3Dプリンター代は無理でもフィラメント代とメイカーフェア出展費くらい穴埋めしたい」。そんな貧乏くさい気持ちもあり。無料公開ではなく完成品を販売することに決め、ネットショップを開設しました。

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ショップページをBASEで作成

在庫99個に設定した結果、注文に追われた

販売にはBASEを使いました。ショップ名も仮のまま、最低限の写真だけ撮って、とりあえず公開。「2〜3個売れたらいいな」 「5個売れたら大成功かな」とのんびり構えていました。ところがX(旧Twitter)での投稿が予想以上に反応があり、注文を告げる通知がくるくる。

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編みもの専用のxアカウントがあり、宣伝はほぼそこのみでやっています。

ここでまず失敗。「受注生産だから在庫は無限だ! 都度補充は忘れそうだし」と、99個という生産能力を超えたおバカな在庫数に設定していたのです。売れると思ってなかったんですね。結果、手元にある材料以上の注文にてんやわんや。これ以上受けたら無理、と30個程度売れたところ慌てて販売をストップしました。

「1個作る設計」と「30個作る設計」の違いで苦労する

その後急いで材料の手配をし、3Dプリンターをフル稼働させて印刷、組み立てをします。が、このモデルはMaker Faireに出したのほぼそのまま。サポートが必要な箇所が多く、印刷時間もかかるし、なによりサポート取りが大変。サポート取りとねじ締めで手が痛くなりながら、「こんなに大変だと思わなかった! もっとちゃんと設計しておけばよかった!」と叫んでいました。しかも値段も安く設定していました。売れたこと自体は手応えがあったのですが、作業時間を考えると売れば売れるほど赤字。慣れぬ育児で時間がない中での作業だったせいもあり、少し疲れてしまいました。そのまましばらく販売は休止しました。

印刷5時間→3時間半、組み立て1時間→10分への道

とはいえせっかくここまでやったし、まだ「欲しい」と言ってくれている人もいる! ならば、設計や組み立て工程を見直そう。まず取り組んだのが、サポート不要化です。オーバーハングを45度以内に抑えるなど、形状を修正。材料のロスと後処理の削減、それに印刷時間も短縮できました。

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左が元の設計、右がオーバーハングを45度に修正したもの。5時間近くかかっていた印刷時間が3時間半に。

また、出力パーツ置き場を整えたり、組み立ての効率化をするために電動ドライバービットを購入したり。特に電動ドライバーの効果は偉大で、劇的に組み立てが早くなりました。

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組立の効率化は地味に大事

他にも、発送がとても苦手だったのですが、梱包と発送の型を決めることで頭を使わずできるように。そういった様々な改良により、1個1時間以上かかっていた組み立てから発送が、今では10分程度でできるようになりました。

加えて値段も見直して販売を再開。最初ほどではないですが、たまに注文が入ります。始めのころのような迷いもなく、すぐに作業を終えられるようになりました。

世界に届けたい!Etsyで3Dデータを販売

BASEでの販売をはじめてしばらくして、海外向けにEtsyでのデータ販売を始めました。外発送や返品対応のリスクを考え、まずはデータのみでスタート。

特に大きな宣伝はしていませんが、Etsyの広告機能のおかげか、ぽつぽつ売れます。売れても特にやることはありません。通知を見てにやにやするだけです。データ販売は基本的にほったらかしでいいので、個人メイカーには非常にやりやすいですね。各言語での問い合わせ対応は発生しますが、それもAIの力を借りればそう問題なくできます。

他にも3Dデータを販売できるCult3Dというサービスにも出してみたのですが、そちらはさっぱり売れず。プラットフォームによる違いは大きいと感じました。

尻込みしていた海外発送は、意外と簡単だった

データ販売をしていると、「3Dプリンターがないから完成品を売ってほしい」というメッセージが。以前なら尻込みしていたのですが、データ販売で自信がついたのか、「やってみるか」と思えるようになっていました。日本郵便の国際eパケットライトを使えば、意外と簡単に海外発送できます。最近始めたのですが、尻込みせずにもっと早く始めるべきでした。。今では、注文があった国を地図アプリで塗りつぶすのを密かな楽しみにしています。

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予想外の使い方を見つけてくれるのが一番うれしい

販売して一番嬉しかったのは、売上ではありませんでした。「これでこんな作品を作りました」「楽しく使っています」といった報告をもらうことです。

自分の作ったものが、本当にちゃんと使えているのか。その不安は、今でも常にあります。 だからこそ、使えている報告や良いレビューを見ると、まず安心します。そして、「楽しんで使っています」と言ってもらえると、何度もコメントを読み返してしまいます。特に、自分では思いもよらなかった使い方をされているのを見ると、思わずテンションが上がります。

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「最高の品質で、梱包も非常に丁寧。完璧に動作し、シルクのように滑らか。この販売者を強くお勧めします。」(編集部訳)こういったコメントがあると一日気分がいい

逆に、不具合報告も貴重です。ある時、パーツが割れてしまったとXで呟いている人が。新しいパーツをお送りして、破損についてお聞きしました。そこで割れにくいように丈夫に設計を見直したり、交換パーツの購入ができるようにしました。ユーザーとのやり取りが、そのまま製品改良につながっています。

「作る→使われる→改良する→また作る」の循環

月に数個程度の販売で、たまに入る注文がよい刺激になっています。大きなビジネスではありませんが、「作る → 使われる → 改良する → また作る」という循環を続けられています。

3Dプリンターによる受注生産は、小さなアップデートを重ねていける点が強みです。製品も説明・販売まわりもまだまだ改良の余地はありますが、完璧を待っていてはなかなか販売にたどり着けませんし、実際に使ってもらって初めて気づく改善点も多くありました。販売者と消費者ではなく、制作者とユーザーとしてゆるくつながる。細々と売りながら改良を重ね、少しずつよいものにしていく。そんなやり方が自分には合っていると感じています。

「無理かな」が「できるかも」に変わるまで

段階的に販売に慣れてきたことで、「無理かな……」と思っていた靴下編み機の販売も、「できるかも」と思えるように。現在、販売に向けて改良を進めています。

販売は、作ることのモチベーションにもなりますし、資金的にも制作を続ける助けになっています。これだけで食べていける規模ではまったくありません。売っているものも少なく、これだけで食べていける規模ではまったくありません。 それでも、利益で3Dプリンターの元は取れるくらいにはなりました。このまま続けて、いつか新しい3Dプリンターも買いたいな、と思っています。

関連情報

むらさきさんの販売サイト「港の靴下工房””

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ライター・デザイナー。 電子工作やデジタルファブリケーションを駆使して、生活をちょっとへんてこでちょっと便利にする(かもしれない)ものを作っては記事を書いている。

現在は、三浦半島の先っぽで自宅をメイカースペースとして時々開放しつつ、自分のものづくりをしたり、人のものづくりを応援したり。

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