
米Qualcommは、2026年4月29日に発表した2026会計年度第2四半期(2026年1〜3月期)の決算で、子会社Arduinoの戦略的位置付けをこれまで以上に明確に語った。連結売上高は105億9900万ドル(約1兆6900億円、前年同期比3%減)、半導体事業のQCT売上は90億7600万ドル(約1兆4500億円)だったが、IoT部門は17億2600万ドル(約2760億円)で前年同期比9%増と伸び、Arduino関連の取り組みもこの中に組み込まれている。
CEOのCristiano Amon氏は決算発表のカンファレンスコールで、第2四半期中の事業ハイライトとして、3月10〜12日にドイツ・ニュルンベルクで開催されたEmbedded World 2026で発表した「Arduino VENTUNO Q」に直接言及。「Qualcommシリコン上に構築された2番目のArduinoプラットフォームで、ロボティクスと産業AI開発者にとって世界水準のプロトタイピングエンジン」「物理世界にAIを持ち込み、音声アシスタントやビジョンシステムを含む幅広いエッジAI用途で完全自律のAIエージェントを動かすことを目的に設計した」と説明した。Arduinoは2025年10月にQualcommが買収を完了し、初のQualcomm搭載ボード「Arduino UNO Q」が同月にリリース済みだ。
VENTUNO Qは、QualcommのDragonwing IQ8シリーズ(IQ-8275)を中核に据え、最大40 TOPSのNPUを搭載するシングルボードコンピューターだ。低レイテンシのモーター制御や即応性が必要な動作のために、別途STM32H5マイコンを統合する「デュアルブレイン構成」を採る。LPDDR5メモリ16GB、64GBのeMMCストレージ、M.2拡張スロット、Wi-Fi 6、Bluetooth 5.3、2.5Gbイーサネットを備え、CanonicalのUbuntuがプリインストールされる。価格・発売時期は現時点で未公表だが、2026年後半に広く流通する見通し。教育・初心者向けというよりも、ロボティクス、産業オートメーション、コンピュータビジョンといったプロ・産業領域を真正面から狙う仕様だ。
Arduinoの方針転換を示すのは製品仕様だけではない。Amon氏は決算で「6月24日のInvestor Dayで、データセンターおよびPhysical AIを含む成長戦略をアップデートする」と明言した。Physical AIは、Qualcommが2026年に重点を置く事業テーマで、ArduinoとEdge Impulse(Qualcommが2025年に買収したエッジAI MLOps企業)の組み合わせを「プロトタイピングから本番デプロイまでをつなぐ層」として戦略図に組み込んでいる。Embedded Worldでは、両社のブースでVENTUNO Qを使った車両検出・トラッキングのデモや、音声起動ロボットのデモが披露された。Arduino VPでQualcommのArduinoジェネラルマネージャーを務めるFabio Violante氏は、Qualcomm公式発表で「VENTUNO QでAIがついにクラウドから物理世界へ降りてくる。1枚のボード上で、知覚、判断、動作のすべてをこなす機械を作れる」とコメントしている。
Arduinoは2005年にイタリア・イヴレアで誕生し、Maker文化の象徴として20年あまりの間、世界の電子工作の入口を担ってきた。Qualcomm買収後の最初の2四半期で発表された製品ラインアップは、その出自から大きく踏み出す方向を示している。VENTUNO Qは「初心者がLEDを光らせるための8ビットボード」とは似ても似つかないスペックで、価格帯やターゲット層も明らかに異なる。一方で、Arduino IDEとArduino App Labによる開発体験、オープンソース思想、Makerへの裾野の広さといった看板は維持される。これまでのArduinoブランドの延長と、Qualcommの産業AI戦略の前線という二面が、現在進行形で重なり合っている状況だ。


