MITが「計算機バイオリン」を発表、ストラディバリウスの音を物理計算で再現

FabScene(ファブシーン)  Close-up of a violin resting on scattered sheet music, showing the f-holes and strings against a warm wooden body.

バイオリン製作の現場では、職人(luthier、ルシエ)が部材を1つひとつ削り上げ、組み立てが終わるまでどんな音が鳴るかわからない。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、この長年の課題に物理シミュレーションで挑んだ。1715年に巨匠Antonio Stradivariが手がけたストラディバリウスのCTスキャンデータを基に、楽器全体と周囲の空気を有限要素モデル化し、弦をはじいたときの音を物理法則だけで再現する「計算機バイオリン」を開発したと、MIT Newsで2026年4月29日に発表した。論文はnpj Acoustics誌に掲載された。

既存の仮想バイオリンソフトの多くは、実物のバイオリンで弾いた数千の音をサンプリング・平均化して音を作る。MITチームのアプローチは根本的に異なり、バイオリンと、それを取り囲む約1立方メートルの空気が物理的にどう振動するかを直接計算し、その結果として音が出てくる。研究チームは2006年のStrad3Dプロジェクトで取得された1715年製ストラディバリウスの600枚のCTスライス画像を3Dソリッドモデルに変換し、有限要素シミュレーションで楽器全体を数百万個の小さな立方体(要素)に分割した。

各立方体には、たとえば裏板部分にはメイプル、表板にはスプルース、弦にはスチールや天然繊維といった材料属性が設定される。応力と運動の物理方程式を適用し、各要素が他の要素とどう影響し合うかを予測する。空気側にも音響波動方程式を適用し、空気の各微小領域がどう動いて音を生成するかをモデル化した。研究チームはこのモデルで弦をはじくピチカート奏法を対象に、バッハの「フーガ ト短調」と「Daisy Bell」(コンピュータ合成音声で初めて歌われた曲へのオマージュ)の数小節を演奏してみせた。今後の課題として、弓で弦をこするボウイングの物理モデル化が挙げられる。

研究チームは、製作家が実際に削り出す前に、木材の種類や裏板の厚さといったパラメータを変えて音響変化を試聴できる用途を想定する。仮想モデルで裏板の厚さや木材種類を変えると、明確な音色の差が出ることを確認した。MITシニアリサーチサイエンティストのYuming Liu氏は「現在の製作家は、実際にバイオリンを作って音を比較し、次の楽器に変更を加える。とても時間とコストがかかる」と現状を指摘する。機械工学のNicholas Makris教授は「職人の魔法を再現するつもりはない。バイオリンの音の物理を理解し、それが製作家の設計を助けられればいい」と述べている。

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