東京大学大学院農学生命科学研究科の齋藤継之教授らの研究グループが、木材由来のセルロースナノファイバー(CNF)に熱可塑性を付与し、プラスチックと同様に加熱成形できる新手法を開発した。論文は2026年5月15日にScience Advancesに掲載された。CNFのナノ粒子凝集体を熱成形できたのは世界初という。
CNFは木材のパルプをナノサイズまで解きほぐした植物由来のナノ繊維で、鋼鉄の数倍の強度を持ちながら軽量で熱膨張が小さい優れた材料だ。しかし従来は「熱で変形しない」という根本的な制約があり、薄いシートや細いフィラメント状にしか成形できなかった。ナノ粒子はもともと熱を加えると分解・酸化するため、自由な形に成形できる「熱可塑性」を持たせることが難しかった。
研究グループはこの課題を、CNF表面の化学的修飾と「イオン液体」の組み合わせで解決した。TEMPO触媒酸化によってCNF表面にカルボキシ基(陰イオン性の官能基)を導入し、100℃以下で液体になるテトラオクチルホスホニウム(P8888)などのイオン液体カウンターイオンと結合させる。このCNFを乾燥させると粉末または薄いシートになるが、約100℃を超えて加熱するとCNF同士の界面に局在するイオン液体が「自己拡散」を起こし、CNF凝集体全体が流動性を持つ。これにより熱可塑性が生まれる。CNF結晶子の構造は保たれたままなので、素材本来の強度や熱膨張の小ささも維持される。
この手法で成形できることが示されたのは、乾燥粉末から透明シートへのホットプレス、葉型などの三次元成形(150℃・4.5MPa・1分)、ヒートシールによる封筒状パッケージの製造(150℃・20MPa・3秒)、30枚のシートを一工程で積層して1.3mm厚の透明板にする多層積層(同・3秒)の4種類だ。成形後の再成形も可能で、2年以上の化学的安定性も確認している。
得られた素材は透明で引張強度68MPa、水中に24時間浸漬した後でも約20MPaの強度を維持する。この水中強度はポリエチレンやポリスチレンと同水準だ。熱膨張係数はほとんどのプラスチックの約10分の1と小さく、通常の熱可塑性材料では達せない「高強度と低熱膨張の組み合わせ」を有する。研究グループはこの熱成形戦略をグラフェンオキシドにも適用できることも示しており、CNFに限らない汎用的なアプローチとしての展開が期待されている。