米イェール大学の研究グループが、金属の内部で原子がどこを速く通り抜けるかを、1回の実験で最大10¹²点測る手法を作った。ナノメートル単位の孔を無数に開けた型を金属に押し付け、孔に入り込んだ材料が伸びる長さの違いを地図として読む。分解能は約10nm²で、1cm²ほどの面積を一度に覆う。成果は2026年7月13日、学術誌「Nature Communications」に掲載された。
金属の硬さや変形しやすさは、結晶の粒がどう並び、粒と粒の境目に原子がどう通るかで決まる。ただしこれを調べようとすると、細かく見れば見るほど測れる面積が狭まり、広く見れば分解能が落ちるという二律背反にぶつかる。原子の拡散が変形を支配する現象では特にこの壁が厚く、材料学の長年の課題になっていた。
研究グループが使ったのは、金属ガラスの成形で使われてきた熱機械ナノモールディングという技術だ。孔の開いた型に材料を押し当てると、孔の周りにできた応力の勾配が材料を孔へ押し込み、細い棒が生える。今回はこれを加工ではなく計測に転用した。原子が通りやすい場所ほど材料がよく流れ込み、生える棒が長くなる。孔の直径は2.5nmから150nmまでで、孔と孔の間隔は直径と同じ。1cm²の型なら約10¹²本の棒が立ち、その1本1本が測定点になる。棒は選択エッチングで型から外して長さと組成を調べ、新たに作った解析モデルで拡散係数の分布に変換する。
棒の長さが孔の直径に対してどう変わるかを見ると、その場所で効いているのが転位のすべりなのか原子の拡散なのかを見分けられる。変形した応答が組織そのものから空間的に切り離されるため、応答の側だけを取り出して成分分析にかけられるのも利点だ。測定後の組織には目立った変化がなく、材料を壊さずに測れると研究グループは書く。
研究グループはこの手法で、結晶粒界の拡散係数を粒どうしの方位のずれ角ごとに一度で求め、温度による変形の変化も追った。金97%とケイ素3%の合金を250℃で試した実験では、粒の上に生えた棒が平均約0.5μmだったのに対し、共晶が集まった領域では約5μmに達した。共晶の領域には金とケイ素の相の境目が多く、そこが原子の高速道路になっていたことになる。相の境目にこうした経路があること自体、これまで知られていなかった。研究は米国立科学財団と米陸軍研究局の支援を受け、責任著者のJan Schroers教授は東北大学金属材料研究所も兼務している。