
リチウムイオン電池の正極材料にはコバルトやニッケルといった希少金属が欠かせない。資源の偏在や価格変動がつきまとい、廃棄時の環境負荷も課題になっている。天津大学のXu Yunhua氏と華南理工大学のHuang Fei氏が率いるチームは、希少金属を使わない有機高分子を正極に採用したリチウム電池を開発し、Natureに論文を発表した。
正極材料に使ったのはPBFDO(poly(benzodifurandione))と呼ぶn型導電性高分子だ。有機材料を正極にする試みは以前からあったが、電気を通しにくく電解液に溶け出してしまう欠点が実用化を阻んできた。PBFDOはそれ自体が電子とリチウムイオンの両方を輸送でき、導電助剤を加えなくても機能する。電解液への溶解も抑えられるため、充放電を繰り返しても材料が劣化しにくい。
チームはPBFDOを正極に使った2.5 Ahのパウチセルを試作した。エネルギー密度は255 Wh/kgで、一般的なリン酸鉄リチウム(LFP)電池の160〜200 Wh/kgを上回る。面積容量は42 mAh/cm²、正極の質量担持量は206 mg/cm²に達した。動作温度は-70℃〜80℃と広く、一般的なリチウムイオン電池が性能低下する極低温環境でも安定して動作するという。
安全性試験でもパウチセルは釘刺し試験を通過し、発火や爆発は起きなかった。有機正極は酸素を放出しないため、熱暴走のリスクが低い。フレキシブル正極の屈曲試験では7万5000回の曲げに耐えた。将来的にはフレキシブルなウェアラブルデバイスや、極地や砂漠での運用が求められる機器への応用が見込まれる。個人の電子工作で使うバッテリーの選択肢が広がる可能性もある。研究チームはすでにパイロット製造ラインの構築に着手しているという。

