米スタンフォード大、電波を出さず熱雑音でデータを送る通信を100倍高速化

米スタンフォード大学の研究チームは、電波を出さずに、身の回りにある熱雑音を使ってデータを送る通信の方式を改良し、通信速度をこれまでの実証の100倍以上に引き上げた。成果は2026年10月20日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

熱雑音は、導体の中の電子が熱で揺れ動くことで生じる、ごく小さな電気の揺らぎだ。一般的な無線機は電力を使って電波を出すが、この方式の送信機は自ら信号を作らず、周りにある熱雑音を変化させて情報を載せる。論文は応用先として、低電力のセンサーネットワークやRFIDタグを挙げる。

研究チームは、外からの電波が入らないよう厚く断熱した箱の中に、送信機と受信機を置いて実験した。送信機はアンテナの回路を開いた状態と短絡させた状態とで切り替え、それぞれを1と0に対応させる。アンテナは状態によって熱雑音を吸収したり反射したりし、受信機は反射してきた熱雑音を増幅して読み取る。送信機、受信機、周囲の温度がすべて室温のままでも通信できた。共著者のJoseph Kahn教授は、送信機について「ただの反射板だ」と説明している。

チームは、この通信路で信号がどう伝わるかを表す数理モデルを導き、それに基づいて装置を調整した。論文によると、通信速度は毎秒キロビット級に達し、これまでの実証より2桁以上高い。誤り訂正符号の一つである極符号(ポーラー符号)を使うと、モデルから求めた理論上の上限に届くことも示した。

論文の最終著者で電気工学の助教授を務めるZerina Kapetanovic氏は、米ワシントン大学に在籍していた時期にもこの方式の研究に取り組み、同大学は2023年1月に、熱雑音でデータを送る初の実験を発表していた。当時の通信速度は毎秒最大26ビット、距離は最大7.3mだった。

大学の発表によると、一般的な高周波の送信機は、熱雑音だけを使う送信機に比べて最大1000倍のエネルギーを使う。研究チームは用途として、環境センシングのような少量のデータの低電力通信や、医療機器や天文台など電波の干渉を嫌う場所での利用を挙げる。今後は、複数の送信機をつないだネットワーク化と、断熱した箱の外の雑音の多い環境でも信号を保つ方法を調べるとしている。

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