ラズパイもNVIDIAも採用、ライセンス料ゼロの命令セット「RISC-V」の歴史

RISC-V(リスクファイブ)という名前を、半導体のニュースで見かける機会が増えた。RISC-Vは、コンピューターの頭脳であるプロセッサが理解する命令の体系、つまり「命令セット」の一つだ。誰でもライセンス料を払わずに使えることが、RISC-Vの最大の特徴である。

RISC-Vを採用する企業も増えている。NVIDIAは、GPUなどのチップにRISC-Vのコアを組み込んでいる。コアとは、命令を実行するプロセッサの中核の回路を指す。同社でマルチメディア・アーキテクチャ担当の副社長を務めるFrans Sijstermans氏は、2024年10月に講演した。同氏は、2024年に出荷するチップに載るRISC-Vのコアが10億個を超える見込みだと説明した。Armマイコンの代名詞だったRaspberry Piも、2024年に発表したマイコンで起動時にRISC-Vのコアを選べるようにした。

RISC-Vには国家も関心を寄せている。中国政府は、国を挙げてRISC-Vの利用を後押しする方針を打ち出したと伝えられている。米国では、先端技術の流出を懸念する議員らが、中国側とRISC-Vで協力する際に輸出許可を義務付けるよう商務長官に求めた。米中の両大国が、誰でも入手できる公開の仕様をめぐって対応を競っている。

なぜ企業はRISC-Vに注目するのか。その理由は、プロセッサ業界のお金の流れを見ると分かる。

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命令セットとライセンス料の仕組み

Arduino IDEの「書き込み」ボタンを押すと、人間が書いたプログラムは数秒のうちに、機械が読める0と1の列へ翻訳される。0と1の並びには語彙がある。「この並びは足し算」「この並びはデータの読み出し」といった対応を定めた辞書が、命令セット(ISA)と呼ばれるものだ。

ただし、命令セットは辞書、つまり仕様にすぎない。設計者が命令セットの定めどおりに命令を実行する回路を設計すると、その回路がプロセッサの中核である「コア」になる。コアをメモリーや周辺回路とともに1つの半導体に収めたものが、私たちが手にするチップだ。RISC-Vの仕様を管理する国際団体RISC-V Internationalも、公式FAQでこの違いを説明している。同団体によれば、RISC-Vの命令セットはそれ自体では実装ではない。実際に動くプロセッサを作るには、有償の場合もある別の設計資産を用意する必要がある。

命令セットは仕様にすぎず、仕様どおりに動く回路(コア)を設計してチップに載せて初めて製品になる(図:FabScene編集部が作成)。

命令セットは1つではない。パソコンではIntelのx86が、スマートフォンではArmの命令セットが主流になった。AppleがMac向けに自社で設計したチップ「Appleシリコン」も、Armの命令セットを使っている。一方、自動車や国産の組み込み機器で広く使われるルネサスのマイコンには、同社独自の命令セットを持つ製品群がある。どの命令セットが広まるかは、対応するプロセッサがどれだけ売れたかで、ほぼ決まってきた。

ビジネスの面で大きく違うのは、命令セットを誰がどんな条件で使えるかだ。x86のプロセッサを作れる企業は、ごく一部に限られる。事実上、IntelとAMD、そしてIntelとの和解でx86互換プロセッサの販売を認められた台湾VIA Technologiesなどだ。x86の仕組みは、契約すれば多くの企業が使えるライセンス事業とは大きく異なる。

対照的に、Armの収益の柱は、設計を他社にライセンスする事業だ。同社の年次報告書によれば、半導体メーカーなどの顧客は、まずライセンス料を払ってArmの設計を使う権利を得る。顧客はそのうえで、Armの技術を使ったチップを1個出荷するごとにロイヤルティを払う。金額は、チップの販売価格に対する一定割合か、1個あたりの固定額で決まる。2026年3月期の売上49億2000万ドル(約7700億円)のうち、約53%がこのロイヤルティだった。顧客がArmの設計したコアを使わず、Armの命令セットに沿って自社でコアを設計する契約でも、チップ1個ごとのロイヤルティは原則として発生する。顧客はArmの命令セットを使う限り、Armへの支払いを続けることになる。

RISC-Vには、この支払いの仕組みがない。RISC-V Internationalによれば、RISC-Vの命令セットを使うのに料金はかからない。企業がコアの設計を他社から買えば、その代金はかかる。しかし自社でコアを設計すれば、命令セットの使用料を誰かに払い続ける必要はない。Arm自身も、年次報告書でRISC-Vを事業上のリスクに挙げている。同社によれば、顧客の多くはRISC-Vの主要な支援者でもある。RISC-Vへの支持が広がれば、顧客がこの無料でオープンな命令セットを選ぶ可能性があるという。

x86、Arm、RISC-Vの利用条件の違い。Armには契約時のライセンス料とチップ1個ごとのロイヤルティを払うが、RISC-Vは命令セットの使用料がかからない(図:FabScene編集部が作成)。

半導体メーカーも、すでにRISC-Vの採用に動いている。独BoschとInfineon、オランダのNXPとノルウェーのNordic Semiconductor、米Qualcommの5社は2023年、RISC-V製品を開発する合弁会社Quintaurisを設立した。2024年にはSTMicroelectronicsも出資者に加わった。ルネサスも2024年3月、自社で設計したRISC-Vのコアを載せた汎用マイコンを発表した。冒頭のRaspberry Piのマイコンのように、ArmのコアとRISC-Vのコアを1つのチップに同居させる製品も登場している。

では、ライセンス料のいらない命令セットは、誰がどのように作ったのか。その出発点は、46年前に2人の若い研究者が始めた研究にある。2人とは、カリフォルニア大学バークレー校のDavid Patterson氏と、スタンフォード大学のJohn Hennessy氏だ。

1980年、命令を減らすRISCの誕生

1980年当時、コンピューターメーカーは命令セットに次々と命令を追加していた。高級な命令をたくさん備えるほど高性能になると、作る側も買う側も信じていた。

この常識に異を唱えたのが、バークレーの若手教員だったPatterson氏である。同氏がBell研究所のDavid Ditzel氏と1980年10月に学会誌に掲載した論文は、先行研究の測定結果を並べてみせた。IBMの大型機では、数百ある命令のうちわずか10種類が、実行の80%を占めていた。2人は自分たちでも実験し、DEC社のコンピューターにあった配列計算用の「高級な」命令を単純な命令4つに置き換えると、同じ処理が45%速くなることを確かめた。2人が提案したのは、使われない命令を削り、よく使う単純な命令だけを速くする設計だ。Patterson氏のチームは、この設計思想をRISC(縮小命令セットコンピューター)と名付けた。

RISCを提唱したカリフォルニア大学バークレー校のDavid Patterson氏(出典元:UC Berkeley)

サンフランシスコ湾をはさんでバークレーの対岸にあるスタンフォード大学でも、研究者が同じ考えにたどり着いていた。Patterson氏の回想によれば、2人が初めて顔を合わせたのは1980年5月、バークレーのキャンパスで開かれた米国防高等研究計画局(DARPA)の会議だった。Patterson氏がRISCの初期成果を発表した同じ場で、スタンフォードのHennessy氏も発表していた。Hennessy氏自身は、同僚のJames Clark氏の研究プロジェクトのために書いたソフトウェアだったはずだと振り返っている。Hennessy氏は1981年にスタンフォードで研究者を集め、MIPSと名付けた独自のRISCプロセッサの開発を始める。スタンフォードのチームは、IBMのJohn Cocke氏が1970年代に社内で進めていた単純な命令の研究を基にしていた。

スタンフォード大学の学長時代に講演するJohn Hennessy氏。2007年撮影(写真:Eric Chan/CC BY 2.0)

業界の反応は冷ややかだった。Patterson氏は後年、RISCは極めて論争的で「異端」だったと振り返っている。ACMの記録に残る同氏の発言によれば、自分とHennessy氏がRISCの側に、ほかの全員が従来型の側にいたという。Hennessy氏も、「大学の研究としては結構だが、客に売る実際の機械では決してうまくいかない」と言われたと明かしている。

2人は、試作したチップで反論した。米計算機学会ACMの記録によれば、バークレーのRISC-Iは1982年に4万4000個のトランジスタで、10万個を使う従来型の設計を上回る性能を示した。スタンフォードの最初のMIPSチップも、1983年に2万5000個のトランジスタで動いた。両者の間には、設計の違いをめぐる議論もあった。ただしACMの記録は、その違いは業界全体を相手にした共通の主張に比べれば小さかったとまとめている。

Armも2人の論文から生まれた

1984年、2人は別々の道を歩み始める。Hennessy氏はサバティカル(研究休暇)の1年を使い、研究成果を製品にするためMIPS Computer Systemsを共同で創業した。Hennessy氏は大学にも籍を残し、のちに2000年から2016年までスタンフォード大学の学長を務めることになる。

Patterson氏は会社を興さず、バークレーで次の世代のRISCを設計し続けた。Patterson氏の研究成果は、ほかの企業が製品にしていった。SPARCの公式年表によれば、米Sun MicrosystemsのBill Joy氏らは同じ1984年に、新しいプロセッサ「SPARC」の設計を始めた。設計は主にPatterson氏のRISCの仕様に基づいていた。1980年の論文の共著者Ditzel氏も、のちにSunでSPARCの開発を率いる一人になる。

英国の技術者たちも、2人の論文を読んでいた。英国のパソコンメーカーAcornで、のちにArmの命令セットを設計するSophie Wilson氏は、オーラルヒストリーで1983年ごろの出来事を語っている。ケンブリッジ大学のAndy Hopper教授が、バークレーのRISCとスタンフォードのMIPSの最初の発表資料と論文を、Wilson氏の机に置いた。すべてに目を通したWilson氏は、「これなら自分たちにもできる」と考えた。Wilson氏とSteve Furber氏が設計した最初のArmプロセッサは1985年4月26日に工場から届き、最初の起動で動いた。トランジスタの数は、スタンフォードの最初のMIPSと同じ2万5000個だった。

最初のArmプロセッサ「ARM1」を搭載したAcornの評価用システム(写真:Peter Howkins/CC BY-SA 3.0)
「最初のArmプロセッサの写真の横で、同じ縮尺で撮ったArm Cortex-M0+の写真を手にするSophie Wilson氏。2013年撮影(写真:Chris Monk/CC BY 2.0)。

Acorn、Apple、米VLSI Technologyの3社は1990年11月、このプロセッサを売る合弁会社Advanced RISC Machinesを設立した。同社が現在のArmだ。初代CEOのRobin Saxby氏は、チップそのものを作らず、設計図の使用権を売る事業モデルを持ち込んだ。冒頭で説明したArmのライセンス事業は、Saxby氏の方針から始まっている。同氏は後年のインタビューで、当時「我々がチップを作るのは、俺の目の黒いうちはない」と冗談を飛ばしていたと振り返っている。2人の論文から生まれたMIPS、SPARC、Armの命令セットは、こうして各企業の財産として世界に広まった。

Patterson氏とHennessy氏は、大学の垣根を越えて協力を続けていた。ACMのインタビューでPatterson氏が語ったところでは、1980年代の2人は既存の教科書への不満を互いにこぼし合っていた。学科長就任が迫り時間がなくなると考えたPatterson氏は、Hennessy氏と「今しかない」と執筆を決めた。2人の共著「Computer Architecture: A Quantitative Approach」は1990年前後に出版された。同書は、直感ではなく測定に基づいて設計を評価する方法を世界の技術者に広めた。

3カ月のつもりで始めたRISC-V

それから20年近くが過ぎた2008年3月、IntelとMicrosoftは、並列計算の研究拠点を2つの大学に置くと発表した。両社は5年間で合わせて2000万ドル(現在のレートで約31億円)を拠出し、そのうち1000万ドル(約16億円)をバークレーに充てた。センター長はPatterson氏で、この資金がParallel Computing Laboratory(Par Lab)の基盤になった。

2010年5月、Par LabのKrste Asanović教授と大学院生のAndrew Waterman氏とYunsup Lee氏は、3カ月の研究プロジェクトで使う命令セットを探していた。RISC-V International公式の記録によれば、3人はx86とArmの採用も検討した。しかし3人は、契約を結べても中身を自由に改造できず、研究成果をほかの研究者と共有することもできないと知った。

それでもWaterman氏は、命令セットをゼロから作ることに迷っていた。RISC-V Internationalの15周年記事によれば、Waterman氏は当初、DECの命令セット「Alpha」を復活させる案を出している。同氏は、コンパイラやOSを用意して膨大なソフトウェアを移植する作業が、一握りの研究者の手に負えない数十億ドル規模の事業に見えたと振り返る。一方のAsanović氏は、Alphaには多くの設計上の問題があり、そのお荷物を背負いたくなかったと語る。数通のメールのやりとりを経て、Waterman氏は2010年5月18日に折れ、新しい命令セットを一から作る道を選んだ。

RISCの生みの親であるPatterson氏も、このプロジェクトに加わった。チームは新しい命令セットをRISC-Vと名付けた。名前のVは、バークレーが1980年代に設計したRISC-I、RISC-II、SOAR、SPURに続く5代目を意味する。チームは2011年に仕様を公開し、誰でも無料で使えるようにした。特許は1件も出願していない。30年前に業界の常識に逆らった研究者が、今度は企業の命令セットに頼れなかった後輩たちの側に立った。しかもその研究所を支えていたのは、x86の本家であるIntelの資金だった。

サムスン主催のイベントで講演するYunsup Lee氏

チューリング賞の2人とRISC-V

2018年3月、ACMはPatterson氏とHennessy氏に2017年度のチューリング賞を贈ると発表した。チューリング賞は、計算機科学のノーベル賞と呼ばれる。ACMは授賞理由に、コンピューターの設計を体系的かつ定量的に評価する手法を切り開いたことを挙げた。Patterson氏は受賞に際し、生まれ育った土地は違っても2人の世界観はほとんど同じで、素晴らしい協働になったと語った。同氏は「長年の協力者であり友人」と賞を分かち合えることを喜んだと報じられている。

2人は2019年、受賞記念講演を基にした論文「A New Golden Age for Computer Architecture」を共著で発表した。2人はこの論文で、コンピューター設計の次の黄金時代を支える柱の一つにオープンな命令セットを挙げ、その最初の例としてRISC-Vを紹介している。論文には、RISC-Vの基本命令は50個で、その数も性質も驚くほど最初のRISC-Iに似ているとの記述がある。1980年に2人が別々に唱えた「命令を削る」設計思想は、無料の命令セットに受け継がれた。2人は39年後の論文で、そのことを連名で書き残している。

2人が共著する定番の教科書「Computer Organization and Design」には、RISC-Vを題材にした版も加わった。会社を興したHennessy氏も、無料の命令セットを教える側に立っている。

かつての仲間もMIPSもRISC-Vへ

2人の周囲にいた技術者たちも、次々とRISC-Vに合流していった。

2017年11月、第7回RISC-V Workshopの壇上に、1980年の論文の共著者Ditzel氏が立った。Ditzel氏はSunでSPARCに携わったあと、省電力プロセッサの米Transmetaを創業し、上場させた人物だ。同氏はこの日、自ら率いる新会社Esperanto Technologiesの計画を初めて公表した。4000個を超えるRISC-Vのコアを1つのチップに載せた、AI向けのプロセッサである。37年前に連名でRISCを世に問うた2人のうち、Patterson氏は無料の命令セットの設計に加わり、Ditzel氏はそれを使うチップを作り始めたことになる。

Hennessy氏が共同創業したMIPSも、RISC-Vに移った。Hennessy氏は1992年に同社の役職を離れている。それから30年近くたった2021年3月、経営再建中のMIPSは、次世代のプロセッサを自社の命令セットではなくRISC-Vで開発すると発表した。命令セットを売る事業の草分けが、無料の命令セットに乗り換えた瞬間だった。RISC-Vを設計したAsanović氏、Waterman氏、Lee氏の3人も、2015年にRISC-Vの設計図を企業に提供するSiFiveを創業している。

米中のはざまで本部はスイスへ

RISC-V Internationalの研究員、スタッフらの集合写真(出典元;RISC-V International)

利用者が増えれば、命令セットを誰が管理するかが問題になる。2015年、36社が集まってRISC-V Foundationが発足し、Patterson氏も理事会の副議長を務めた。団体は2020年3月に本拠を米国からスイスへ移し、RISC-V Internationalと名を改める。団体は公式に、仕様へのアクセスが政治に左右されないことを保証してほしいとの声が、世界の会員から寄せられたことを理由に挙げている。移転を報じたReutersの取材に、当時のCEOは会員が米中の分断を懸念していると語った。バークレーのチームは2011年、スイスに拠点を置くSTMicroelectronicsの製造技術を使って、最初のRISC-Vチップを試作している。

会員の懸念は現実になった。2023年11月、米議会の超党派の議員18人が商務長官に書簡を送り、米国の企業や個人が中国側とRISC-Vで協力する際に輸出許可を義務付けるよう求めた。ただ、RISC-Vの仕様は誰でも入手できる形で公開されている。2026年8月時点で、RISC-Vを名指しした規制は成立していない。太平洋の反対側では、Reutersが2025年3月、中国の8つの政府機関がRISC-Vの全国的な利用を促す初の指導文書を作成中だと報じた。その後、中国の通信大手系研究機関の白書など複数の中国側資料は、この文書が2025年に発布されたと記している。ただし、文書の全文が政府サイトで公開されたことは確認できていない。バークレーの夏のプロジェクトは、16年で大国の政策の議題に載った。RISC-V International自身は、いかなる地域の政治的立場も取らないと明言している。

5ドルのPico 2にも載るRISC-V

画像出典元:Raspberry Pi

2人から始まったRISCの設計思想は、いまや個人が買える価格帯のマイコンにも使われている。

「Raspberry Pi Pico 2」の搭載チップ「RP2350」には、Armのコア2個とRISC-Vのコア2個が同居していて、起動するたびにどちらで動くかを選べる。1983年にWilson氏が机で読んだ論文から生まれたArmの命令セットと、2010年にバークレーで生まれたRISC-Vが、1枚の小さな基板の上で隣り合っている。

RP2350に載ったRISC-Vのコア「Hazard3」を設計したのは、Raspberry PiのエンジニアLuke Wren氏である。Raspberry Pi公式ブログによれば、Hazard3はWren氏が余暇に取り組んできた個人プロジェクトだ。同ブログでWren氏は、前作をもとに作り直してから性能測定のプログラムが動くまで、1週間とかからなかったと語っている。Wren氏は設計データをGitHubで無料公開している。誰のものでもない命令セットの上で、一人の技術者が余暇に作ったコアが量産チップに載った。

欧州の素粒子物理学研究所CERN(セルン)も、RISC-Vを使っている。CERNは加速器の時刻同期システム「White Rabbit」の制御用プロセッサを、2023年12月に自作のRISC-Vコア「uRV」へ置き換えた。CERNは次世代の同期装置「WREN」の基板を無料の回路設計ソフト「KiCad」で設計し、設計図をCERN自身のオープンハードウェア用ライセンスで公開している。CERNとKiCadの関係は、Deep Fabの既報で詳しく書いた。電子工作で定番のEspressifも、「ESP32-C3」以降のチップにRISC-Vのコアを採用した。FabSceneが2026年2月に紹介した290円のマイコンボード「UIAPduino Pro Micro」も、RISC-Vのコアを積んだマイコンを使っている。

では、RISC-Vを作ったのは誰なのか。Patterson氏らが2016年にまとめたバークレーの技術レポートは、その答えを数字で示している。RISC-Vの122の命令を18の先行する命令セットと比べると、前例のない命令はわずか6つだった。残る116のうち98は、3つ以上の命令セットにすでに登場していた。

RISC-Vは、誰か一人の発明ではない。IBMでCocke氏が試した単純な命令の考え方を、バークレーのPatterson氏とスタンフォードのHennessy氏が磨いた。多くの技術者が積み重ねてきたその設計を、バークレーの大学院生たちが集め直したものがRISC-Vだ。そして大学院生たちは、それを誰のものでもない形で公開した。1980年に別々の場所で同じ設計思想にたどり着いた2人は、39年後、その考え方が無料の命令セットの中で生きていると連名で書いた。その命令セットを、いまは世界中の企業と国家、そして電子工作を楽しむ個人までもが使っている。

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FabScene編集長。オープンソースハードウェアや3Dプリンター、デジタルファブリケーション、ハードウェアスタートアップを専門領域とする。

大学卒業後、複数の業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年当時に所属していた会社でwebメディア「fabcross」の設立に参画。12年間に渡ってサイト運営に従事し、月間100万PV規模に成長させる。並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者など100人以上取材。

2017年に独立、2021年にシンツウシン株式会社を設立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、企業のPR・事業開発コンサルティングやスタートアップ支援事業に携わる。

2025年にFabSceneを設立。ハードウェアとデジタルファブリケーションの「現場」を一次取材で記録することをミッションとする。趣味は365日働ける身体作りと古着屋巡り。

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