19世紀の写真技法ダゲレオタイプ、半導体の成膜技術で銀板を自作

ダゲレオタイプは、1839年に公表された、人類が初めて実用化した写真技法だ。銀を張った金属板に、像を直接焼き付ける。読者のKoji Tokura氏は、この銀板を、半導体の製造にも使われる「スパッタリング」という手法で自作し、当時のカメラで撮影を続けている。

現代でアマチュアが安く手に入れられる銀板は、電気めっきで作られる。ただTokura氏は、めっきに必要なシアン化合物がダゲレオタイプの像を損なうのではないかと考えた。そこで、真空中で銀の薄い膜を吹き付けるスパッタリングなら、きれいな銀板を作れるはずだと見込んだ。

スパッタリングは、真空の容器にアルゴンガスを入れて高い電圧をかけ、プラズマを起こし、その勢いで銀の粒をたたき出して相手の板に積もらせる手法だ。氏は、耐熱ガラスの容器とアルミの土台で真空チャンバーを組み、電子レンジ用の昇圧トランスで作った高い電圧でプラズマを起こす。銅の板を電極から20〜30mm離してセットし、そこへ銀を積もらせる。

成膜を効率よく進めるため、磁石を使う「マグネトロンスパッタ」を採り入れたが、磁石は板の全面を一度にはカバーできない。そこでTokura氏は、ペンプロッターを改造したCNCで、磁石を板の下で格子状に動かし、面の全体へ銀を回した。市販のCNC制御に不満を感じ、パソコンのGコードをGRBL向けに変換する制御プログラムまで自作するなど、周辺の仕組みも自分の手で作り込んでいる。

装置は一朝一夕にはできなかった。初期は百円ショップのガラス容器で組んだが、放電や真空不足に悩まされた。原因は、ポンプの油が逆流してプラズマを汚すことだと突き止め、より高い真空を作れるターボ分子ポンプ(新品なら約5000ドル、約81万円)を中古で手に入れた。いまの4世代目のチャンバーは、自分の3D設計を海外の真空装置メーカーに送り、本格的な仕様で作ってもらった。

現像には2つの方法を使い分けている。1つは、日光で像を浮かび上がらせる「ベクレル法」で、扱う有害な薬品はヨウ素程度と、初心者にも入りやすい。もう1つは、階調の豊かさで勝る水銀現像だ。海外で多い加熱した水銀蒸気を使うやり方は健康への懸念が強いが、Tokura氏は、真空チャンバー内で水銀の蒸気の分圧を下げ、常温で安全に現像できる装置も自作した。撮影に使うのは、1920年代のフォクトレンダーなど古いカメラで、5分ほどの露光で1枚を写し取る。高電圧や真空を扱うため、まねるには相応の知識と備えが要るが、消えかけた技法を、真空技術と自作の設備で現代によみがえらせる、挑戦的な試みだ。

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