65万円の実験装置を1万6000円に、3Dプリンター製の電池セルを35機関が採用

英クイーンズ大学ベルファストの研究チームが、3Dプリンターで製作できるフロー電池の実験用セルを開発し、世界の35を超える研究グループに配布して国際共同研究を始めたと2026年7月20日に発表した。購入すると最大3000ポンド(約65万円)かかる実験用セルを、約75ポンド(約1万6000円)で自作できるようにした。設計データはオープンソースで公開しており、マサチューセッツ工科大学(MIT)と連携して、米ハーバード大学や英ケンブリッジ大学のチームを含む各国の研究室が、同じセルと共通の手順で試験を進めている。

背景には、再生可能エネルギーの弱点がある。太陽光や風力は天候に左右され、発電できる時間を人間が選べない。発電した電気を大量にためて必要なときに使う技術が確立しない限り、化石燃料への依存は続く。研究チームによると、英国とアイルランドでクリーンエネルギーが消費全体に占める割合はいまだ約16%にとどまる。スマートフォンや電気自動車で使われるリチウムイオン電池は小規模な用途には有効だが、電力網レベルの長時間蓄電では規模拡大のコストが高く、発火リスクや、材料となるコバルト採掘の倫理問題も抱える。

そこで有力視されるのがフロー電池だ。電気をためる液体(電解液)をタンクに蓄え、ポンプでセルに送り込んで充放電する仕組みで、タンクを大きくするだけで容量を増やせるため、大規模で長時間の蓄電に向く。ただ、実用化が最も進むタイプは電解液にバナジウムという金属を使う。バナジウムは製鉄業と結びついた限られた産地でしか生産されず、価格変動が激しい。チームはこの代わりに、入手しやすい鉄を使うフロー電池の開発を進めている。

3Dプリント製セルの原点は、研究者の懐事情だった。開発者のHugh O’Connor氏は博士課程の研究中、市販の実験用セルの価格の高さに直面し、自分で3Dプリントすることを思い立った。試行錯誤の末に安定して動作するセルを完成させ、2022年には設計手法を学術誌『Sustainable Energy & Fuels』で発表した。セルは熱溶解積層方式(FFF)のデスクトップ3Dプリンターと、ABSなど入手しやすい樹脂で印刷でき、全設計ファイルを公開しているため、CADソフトを使わずダウンロードして印刷するだけで製作できる。同じ条件の市販セルと比べて充放電のエネルギー効率でも遜色ない結果を示した。

安価なセルは、研究のもう1つの壁も崩しつつある。O’Connor氏が他の研究と結果を比べたところ、研究室ごとにフロー電池の使い方が異なり、誰も同じ結果を得られていないことが分かった。そこで同氏は家具の組み立て説明書のような手順書を作り、セルとともに世界の研究グループへ送った。各研究室が同一のセルと明確に定義した手順で名目上同一の試験を実施し、結果の差がどこから生まれるのかを解明する取り組みだ。共同研究者のJosh Bailey氏は、この国際研究が長時間エネルギー貯蔵の技術革新を加速し、化石燃料からの転換を前進させるとの見通しを示している。

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