出力不可能だったリサイクル材に挑む伊WASP、土で家を3Dプリントする理由

泥を集めて巣を作るドロバチのように、地元の土で家を3Dプリントする。イタリアの3DプリンターメーカーWASP(ワスプ)は、そんな目標を掲げて2012年に創業した3Dプリンターメーカーだ。

2026年10月1日、千葉工業大学 津田沼キャンパスで、同社のセールスマネージャーを務めるGiulio Buscaroli氏が講演した。土やリサイクル材は品質がそろわず、扱いにくさから敬遠されがちな素材だ。同氏はそうした素材にあえて挑む理由と、ファブラボの文化から始まった会社の作り方を語った。サステナブルマテリアルEXPO(2026年9月30日〜10月2日、幕張メッセ)への出展に合わせた来日で、聞き手は湯浅亮平氏(慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任講師)が務めた。

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ドロバチにならい、土地の材料で作る

WASPは周辺の泥を集めて巣を作るドロバチに着想を得て、Massimo Moretti氏らが起業した。正式名称はWorld’s Advanced Saving Projectで、略称のWASPは、英語でハチを意味する。拠点はイタリア北部エミリア=ロマーニャ州のマッサ・ロンバルダにある。

社名の由来になったドロバチ。周辺の泥を丸めて運び、巣を作る(画像提供:WASP)。

「人間も、自然の素材で同じことができないか」という問いが会社の出発点だったと、Buscaroli氏は説明する。遠くから材料を運べなかった時代、人は世界中で身近な土や石を使って住まいを作ってきた。技術の力で、自然素材を賢く使う暮らしを取り戻す——WASPはこうした事を自社のビジョンに掲げている。

WASPの源流には、香りづくりもある。マッサ・ロンバルダには、植物から抽出した精油で天然香料を作るブランド「Olfattiva」がある。2006年に同地で生まれ、WASP創業者のMoretti氏も立ち上げに関わった。Buscaroli氏によると、WASPの創業者たちは機械を作り始める前から自然の素材に強い関心を持ち、植物を集めて精油を抽出する事業を始めていた。技術の分野は異なるが、Olfattivaは今もWASPと同じグループの会社だという。

OlfattivaはWASPと共有する技術パーク「Shamballa Zone」で、食料生産に向かないために栽培されなくなった「忘れられた植物」を小さな畑で育て、その香りを抽出している。こうした品種を絶やさないことも狙いの1つだとBuscaroli氏は紹介した。

イタリアには、運ぶ距離が短いものほど良いとする「キロメートル・ゼロ」という考え方がある。Buscaroli氏は、食べ物に限らず衣類や日用品にも当てはまる言葉だと説明した。日本の地産地消に近い意味合いがある。WASPも公式サイトで、周辺で手に入る材料を使って家を建てることを目標に掲げている。

WASPセールスマネジャーのGiulio Buscaroli氏(左)と、慶應義塾大学の湯浅亮平氏(画像提供:湯浅亮平氏)。

同氏は、土地ごとに異なる文化や知恵を、自然界の生物多様性になぞらえた。植物や動物が土地に適応して姿を変えるように、人も住む場所ごとに違う課題を抱えている。その違いを生かす道具として、WASPは機械を選んだ。

機械を選んだ理由は、地元の産業にもある。拠点のあるエミリア=ロマーニャ州はボローニャに近く、フェラーリやランボルギーニを生んだ地域でもある、とBuscaroli氏は紹介した。「機械づくりに向いた土地だから、良い機械を作れると信じている」

現在の事業は、樹脂、陶土、建築の3本柱で成り立つ。樹脂ではリサイクル材をできるだけ多く使い、役目を終えた造形物を粉砕して、新しい形と機能に作り直す。陶土は、人類が最初期に使った素材の1つだと同氏は言う。建築では、土や石灰系の材料、コンクリートを使った造形に取り組んでいる。

WASPの3つの製品ライン。左から樹脂用、陶土などのペースト材料用、建築用(画像提供:WASP)。

使い道の分からない機械を、使い手と育てる

「私たちはいつも、奇妙な技術を作ってきた」とBuscaroli氏は振り返る。機械を見た人は「これは何だ、どう使うんだ」と首をかしげる。そのため創業当初から、何に使えるのか、なぜ役に立つのかを、自分たちで示す必要があった。

示すために選んだのが、その分野の専門家と組むやり方だ。陶土を出力する技術がその典型だった。WASPは初期の機種から、シリンジを付けて陶土を押し出せる仕組みを備え、のちに陶土専用の押し出し機を開発している。ただ、機械を作った当時、WASPには陶芸の知識がなかった。

そこで向かったのが、イタリア有数の陶芸の産地ファエンツァだ。芸術家や年配の陶芸職人を訪ね、「こういうものが作れる。何を作ればいい?」と相談した。職人の答えは、WASPが想定していなかったものだった。

陶芸で彫像を作るときは、窯で焼くために、成形した像の内側の土をくり抜いて空洞にする必要がある。3Dプリントで造形すれば、最初から中が空洞の形になる。職人が指摘したのは、WASPの機械なら陶芸の工程の手間を1つ省けるという点だった。陶芸の作り方を知らなかったWASPは、自分たちの機械の使い道を職人から教わったことになる。Buscaroli氏は、こうして人と話すうちに、少しずつアイデアが出てきたと振り返る。

陶土の造形には、手作業にない利点がほかにもある。手作業では同じ形を繰り返し作るのが難しいが、3Dプリントなら同じ形を再現でき、自然界の樹木や岩のような複雑な曲面も作れる。こうした用途は、機械を作っただけでは見つからなかった。「まず美しいプロジェクトを1つ作ること。最初の一歩を踏み出すことだ」と同氏は強調した。

世界的なラグジュアリーブランドの依頼で出力した陶器。Buscaroli氏によると、約4000個を量産した(画像提供:WASP)。

「長年、無理だと言ってきた」素材に挑む

リサイクル材や自然素材は品質が均一ではないため、3Dプリントするときに苦労するはずだ。WASPはそれをどう解決しているのか。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアでも工夫しているのではないか。筆者のこの質問に、Buscaroli氏は「難しい問題だ」と応じた。

従来の材料を使うほうが簡単ではある。しかし、それでは何の問題も解決しない、と同氏は続けた。だからWASPは、不均一な材料を扱える機械づくりに力を注いでいる。

同氏が例に挙げたのは、サステナブルマテリアルEXPOの自社ブースで出力していたリサイクル樹脂のフレークだ。形も大きさもそろわない破片を、WASPは長年「出力できない、品質が出ない」と顧客に説明してきた。材料を送る仕組みを新たに作ったことで、ようやく出力できるようになった。

リサイクルステーション「RIGENERA 3D」の構成。廃材を分別して粉砕し、除湿してから出力する(画像提供:WASP)。

ほかの機種でも同じ方針を取り、完全ではない材料をできるだけ幅広く扱えるようにしている。そのうえで、Buscaroli氏は使う側の意識にも言及した。

「自然素材やリサイクル材を使うなら、出来上がる物が毎回まったく同じではないと想定しておくべきだ。木材は毎回少しずつ違うが、それで構わない。自然は完全に均一ではないが、十分に均一ではある」

天然素材やリサイクル材が広く使われない理由について、同氏は「難易度が高く、コストが高いと考えられているから」と率直に認めている。

自然そのものを味方につける研究もある。講演では、粘土と、木材を切るときに出るおがくずのペーストを出力し、キノコの菌糸体(根に当たる部分)の働きで強度を高める、オーストリアのグラーツ工科大学Shape Labの試みが紹介された。おがくずは大量に出て処分に困る廃棄物だという。「自然を味方にして、面白い素材を作れる」と同氏は語った。

粘土、菌糸体、おがくずを組み合わせて出力した造形物。オーストリアのグラーツ工科大学Shape Labが制作した(画像提供:WASP)。

樹脂では、使い捨ての問題もある。展示会やイベントなど期間限定営業の店舗での造作物は1度使われただけで捨てられることが多く、レジンやグラスファイバー、ウレタンフォームといった有害な素材が使われることも少なくない。Buscaroli氏は、リサイクル樹脂の3Dプリントをその代わりに提案したいと話した。

オープンソースから始まった会社

樹脂の3Dプリンターでは、Klipperをはじめとするオープンソースのソフトウェアが技術の進歩を後押ししてきた。建築用のように、WASPが手がける領域でも、オープンソースの技術が難しい課題を越える力になり得るのか。筆者が続けて尋ねると、Buscaroli氏は「そう思う」と答え、WASPの成り立ちから話し始めた。

WASPは、オープンソースやファブラボ、Makerの文化から出発した会社だ。初期のプロジェクトは完全にオープンソースで、機械の設計データをダウンロードすれば、誰でも自分で組み立てられた。同氏は今も、このやり方はイノベーションにとって前向きだと考えている。ただ、従業員を雇い、家賃を払う会社として続けるには、十分な利益が出なかった。

そこで現在は、できる限りオープンにするハイブリッドの方針を取る。その1つが、使い手が好きな材料を使えるようにする「オープンマテリアル」の考え方だ。Buscaroli氏によると、競合の多くは特定の材料を使うよう求める。WASPの機械は改造や操作、調整が比較的簡単な作りで、使い手が試行錯誤しやすい。素材の可能性を使い手と一緒に広げることで、イノベーションも速くなるという。学校や大学、ファブラボへの支援も続けており、教育と技術革新に役立つ場所に機械を届けようとしている。

一方で、産業用の機械を完全にオープンソースにするのは難しいとも認めた。機材のコストが高く、ロボットのような機械を個人が自作するのは容易ではないからだ。

機械以外は作らない

WASPの人員構成について、Buscaroli氏は「いつも変わるので難しい質問だ」と前置きしたうえで説明した。機械を組み立てる製造部門が約15人、機械を設計し、新しい実験や試験を担う研究開発部門が約10人。プロジェクトを担当するのは2〜3人にとどまる。残りは管理部門や営業だ。

プロジェクトの人数が少ない理由は明快だ。「私たちの日々の仕事は、造形物の建築家やプロダクトデザイナーとしてのものではない。なぜ自分たちで作品をデザインする必要があるのか」とBuscaroli氏は言う。造形する作品のデザインは、社外の才能ある建築家やデザイナーに任せるのが基本で、機械は100%自社で設計する一方で造形する作品の約8割は、WASPと協業するパートナーや、WASPの技術を使う社外の人がデザインしている。機械づくりが得意だからだ。

同氏は、自分たちの役割を「イネーブラー(後押しする存在)」と表現した。能動的に動くのは使い手の側で、WASPはそれを可能にする道具を用意する、という考え方だ。

顧客と組むときも、同じ考え方を取る。WASPのビジョンに合う持続可能なプロジェクトに熱心な顧客には、機械を安く提供したり、自社の施設で機械を無償で使えるようにしたりすることもある。

技術者こそ、物語を語れ

WASPの機械は、大手ブランドの店舗にも採用されている。2021年には、粘土と砂、天然繊維を3Dプリントしたディオールの期間限定ストアをドバイに建てた。Buscaroli氏によると、粘土系の素材を望んだのはブランド側だった。

2021年にドバイに建てたディオールの期間限定ストア。粘土と砂、天然繊維を3Dプリントした(出典元:WASPWebサイト / © Mohamed Somji)。

なぜ大手ブランドがWASPと組むのか。聞き手からの質問に、同氏は「彼らが見ているのは、スペックや造形速度を備えた機械ではない。この技術で何が可能になるのか、その背後にどんなビジョンがあるのかだ」と答えた。ファッションブランドはプロジェクトが持つメッセージや意味を重視するといい、粘土を選んだ理由についても「土はかっこいいと人々に示すことが大事だ」と話した。

同氏は、技術者として話を続けた。「私も技術畑の人間だ。なぜそれをやるのかを忘れてはいけないし、自分たちのしていることの物語を語るのを忘れてはいけない」

なぜ自然素材を使うのか。なぜリサイクル樹脂を選ぶのか。持続可能性を大切にするなら、顧客に会ったときにそれをうまく語れなければならない。世界には、この分野に飛び込みたい人や企業、ブランドが大勢いる。うまく語れれば、技術で形にできると彼らに納得してもらい、手を取って導ける、と同氏は語った。

「マーケティングの話に聞こえるかもしれないが、そうではない。プロジェクトを生かし、育てるには、前向きに語り、美しい写真を撮り、外に出て発表することが大切だ」

Buscaroli氏によると、WASPはPR活動にも気を配ってきた。研究室の中で美しいものを作っても、人の目に触れなければ関心は集まらない。報道機関やオンラインメディア、SNS、イベントで発信を続けた結果、持続可能性や建築、デザインに関心を持つ人が、書籍や雑誌、Webサイトで事例を取り上げるようになった。

「我慢強く続ければ、必ず広がる」とBuscaroli氏は言う。5年前に手がけたプロジェクトが、今も紹介されることがあるからだ。そのためには、CGではなく、実際の造形物を撮影した質の高い写真が欠かせないと強調した。

日本で賭けた人たちと、残る宿題

講演では、日本で土の3Dプリントに取り組む例も紹介された。熊本県山鹿市の住宅会社Lib Workは、WASPの建設用3Dプリンターを使い、土を主原料とする約100平方メートルの住宅「Lib Earth House model B」を2025年7月22日に完成させた。壁にはセメントを一切使っていない。

Lib Workが熊本県山鹿市に建てた「Lib Earth House model B」。土を主原料に、WASPの建設用3Dプリンターで壁を出力した(出典元:Lib Work Webサイト)。

Buscaroli氏は、同社が低コストで持続可能な住宅を目指してこの技術を推し進めている点を評価した。日本の耐震基準は厳しく、それを満たす住宅を建てるのは簡単ではないとも指摘し、「日本の人はもっと誇りに思っていい」と話した。

2025年の大阪・関西万博にも、WASPの機械で作られた施設があった。浜田晶則建築設計事務所が設計した「土の峡谷(トイレ4)」だ。外装パネルやベンチを兼ねたプランターを、WASPの建設用3Dプリンター「Stand-Alone Crane WASP」で出力している。

材料には土、粘土、硬化剤、藁、顔料、海藻糊を使った。日本の伝統的な土壁に学んで選んだもので、すべて国内で手に入り、会期後に自然へ還せることを条件にしている。外装パネルは富山の工場で56枚を出力し、1枚ごとに表面の形が異なる。

大阪・関西万博の会場で、ベンチを兼ねたプランターを出力する様子(画像提供:WASP)。

一方で、土の建築には課題も残る。講演の参加者の1人は、震災の後に仮設住宅で暮らした経験を話した。道路や物流が途絶えると資材が届かず、体育館や公民館で長く過ごす人が多い。3Dプリントが特別な技術でなくなれば、災害時に仮設住宅を建て、撤収後に再利用することはできるのか、という質問だった。

Buscaroli氏は、技術を開発し始めた当初から災害支援を念頭に置いてきたと答えた。課題は、自然素材に関する研究やデータの蓄積がまだ乏しいことだ。コンクリートは約100年にわたって使われ、大学による研究や論文、データが積み重なっている。土のような地元の素材はそうではない。WASPは多くの大学と組み、安全で認証を受けられる技術にするための研究を進めている。時間はかかるが、将来は可能になると同氏は見ている。

そのうえで、3Dプリント以外にも進歩を続けている優れた技術があり、3Dプリントが常に最良の技術というわけではないとも付け加えた。Buscaroli氏は3Dプリントを専門とする、とある教授から聞いた「3Dプリントは、ほかのどの技術も使えないときに使う最良の技術だ」という言葉を紹介し、その通りだと思うと話した。繊細で簡単な技術ではないが、状況によってはとても役に立つとも語った。

品質とは何か、価値とは何か

サステナブルマテリアルEXPOで展示したロボットアームによる3Dプリントのデモ。アーム部分はABBの最新モデルを採用している(画像提供:湯浅亮平氏)。

講演の終盤、日本の印象を問われたBuscaroli氏は、品質と機能への情熱を挙げた。仕事で世界中を回るなかで、日本にはまだ固有の工芸や知恵が多く残り、物事への深い理解があると感じるという。古くなったもの、使い込まれたものを美しいとする「わびさび」の考え方も、世界にもっと必要だと語った。

イタリアでは、何種類ものプラスチックを細かく分別する習慣が根付いている。始めた頃は嫌がる人も多かったが、今ではイタリアの得意分野になった。Buscaroli氏は、技術と知恵の蓄積がある日本なら、循環型経済で世界一になる可能性があると見ている。

その可能性を形にするには、最初の一歩を踏む作り手と、それに賭ける使い手の両方が要る。WASPの陶土の技術はファエンツァの職人との出会いで用途を得た。日本でも、土の3Dプリントに踏み出す事例が生まれている。同氏はデザイナーとして、いま目を向けるべきなのは品質だと話していた。「品質とは何か、価値とは何か。そこに焦点を当てれば、ほかのことは自然と見えてくる」

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FabScene編集長。オープンソースハードウェアや3Dプリンター、デジタルファブリケーション、ハードウェアスタートアップを専門領域とする。

大学卒業後、複数の業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年当時に所属していた会社でwebメディア「fabcross」の設立に参画。12年間に渡ってサイト運営に従事し、月間100万PV規模に成長させる。並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者など100人以上取材。

2017年に独立、2021年にシンツウシン株式会社を設立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、企業のPR・事業開発コンサルティングやスタートアップ支援事業に携わる。

2025年にFabSceneを設立。ハードウェアとデジタルファブリケーションの「現場」を一次取材で記録することをミッションとする。趣味は365日働ける身体作りと古着屋巡り。

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