
スマートフォンの急速充電器が数年でひとまわり小さくなったのは、窒化ガリウム(GaN)という材料が中身に入ったからだ。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究グループは、このGaNを使った素子で3400Vを超える電圧に耐えることに成功した。従来のGaNが苦手としてきた高電圧の領域に踏み込む成果で、2026年8月28日に学術誌「Nature Electronics」に掲載された。
充電器のような数十Vから数百Vの世界では、GaNはシリコンより小さく効率よく電気を扱える。ところが電圧を上げていくと、素子の中で電気の力が一点に集まり、そこから壊れてしまう。データセンターの電源や送電網、電車のように数千Vを扱う領域では、いまだにシリコンが主役という状態が続いていた。
なぜ一点に集まるのか。GaNの結晶の中では、電気を運ぶ電子が薄い膜のように集まって流れている。スイッチを切ると、この電子が経路から押し出され、あとにはプラスの電気だけが取り残される。プラスとマイナスの釣り合いが崩れた場所に電圧が集中し、そこが壊れる引き金になる。GaNの得意技である電子の膜が、そのまま弱点になっていた。
研究グループの解決策は、電子の膜と並べてプラスの電気の膜も最初から作っておくことだった。GaNの層の重ね方を工夫し、結晶が自然に持つ電気の偏りと、歪みから生まれる偏りの両方を利用する。不純物を混ぜる従来の手法は使わない。プラス側にも電極を付けたので、スイッチを切る瞬間に両方を一緒に引き抜ける。釣り合いが崩れないため、電圧は一点に集まらず全体に散る。
作った素子では、ダイオードが3900Vを超え、トランジスターが3400Vを超えた。電気を通しているときの抵抗も小さく、スイッチを繰り返しても性能の落ちは3000Vまで15%未満にとどまった。温度が変わっても壊れ方が安定していたという。
高い電圧に耐えることと抵抗が小さいことは、普通なら一方を取れば他方を諦める関係にある。両立が求められるのは、AIのデータセンターや太陽光発電の設備で、電気の形を変えながら送る場面だ。ここでの損失はそのまま熱になって消える。研究はEUの研究助成と、スイスの公的機関の支援を受けた。

