あなたのスキルはなぜ当たり前になるのか、MITがAIと「新しい仕事」を80年分析

画像出典元:MIT News

機械が人間の仕事を奪うという不安は、何世紀も前から繰り返し語られてきた。AIの普及でその問いがふたたび熱を帯びるなか、MITの労働経済学者David Autor氏らの研究チームは、過去80年あまりの米国の雇用データを分析し、技術が実際にどんな仕事を生み、誰がそれを担ってきたのかを明らかにした。論文は学術誌Annual Review of Economicsに掲載される予定で、すでにNBERのワーキングペーパーとして公開されている。

Wordを扱えるだけで、希少価値のあった時代もあった

技術が特定の仕事を消すのは事実だ。1920年代から1940年代にかけて、米国の電話会社が交換機を自動化すると、電話交換手の雇用は10年ほどで地域によって50〜80%減った。それでも社会全体で見れば、仕事の種類はむしろ増え続けてきた。研究チームが以前に発表した分析では、1940年から2018年までの米国の仕事のおよそ6割が、1940年以降に広まった新しい職業だった。

カギを握るのが「new work(新しい仕事)」、つまり技術や経済の変化に応じて新たに登場する職業だ。米国勢調査局は、人々が職業欄に書き込む内容をもとに職業のリストを更新しており、たとえば「AIスペシャリスト」は2000年、「サイバーセキュリティアナリスト」は2018年に加わった。研究チームはこの記録を手がかりに、どの時代にどんな仕事が生まれたかを特定した。その結果、2011年から2023年の労働者の18.3%が、1970年以降に登場した職業に就いていた。およそ5人に1人が、半世紀前には存在しなかった仕事をしている計算になる。

新しい仕事に就きやすいのは、30歳未満の若い世代、高学歴の労働者、そして都市部で働く人だった。同じ職種や産業の中で比べても、この傾向は変わらない。賃金の面でも優位がある。職種や産業、地域や学歴をそろえて比べても、新しい仕事に就く人の賃金は高く、とくに技術にひもづいた仕事ほどその差は大きかった。しかも、いちど新しい仕事に就いた人は、その後も新しい仕事に移りやすい。1940年に新しい仕事をしていた人が、10年後の1950年にも新しい仕事に就いている割合は、平均のおよそ2.5倍だった。Autor氏は、価値を生むのは作業ができることではなく希少な専門知識だとし、「全員が専門家なら、誰も専門家ではない」と語る。

ただし、その優位は長くは続かない。専門知識が広まるにつれて希少性は薄れ、賃金の差も縮んでいく。Autor氏は身近な例を挙げる。車の運転はかつて特別な技能だった。1990年代までは「Microsoft Word」を扱えること自体が希少だった。それがいまでは、コンピューターを使う上での基本になっている。新しい仕事は、やがて当たり前の仕事へと変わっていく。

新しい仕事は、テクノロジーの隣にある

新しい仕事が生まれる場所も、時代とともに動いてきた。1950年の時点では、新しい仕事の4割以上が工場の生産職や事務職という中程度の賃金の領域にあった。それが近年では、4割以上が専門職と管理職という高賃金の領域へ移っている。技術がもたらす新しい仕事の重心は、現場から知識労働へと移ったと言える。

では、新しい仕事は何をきっかけに生まれるのか。研究チームは、第2次世界大戦中に米政府が主導した工場建設に注目した。政府の投資で大規模な製造拠点ができた地域では、戦後にかけて新しい仕事が増え、1940年から1950年に生まれた新しい仕事の85〜90%は技術にひもづくものだった。需要が生まれる場所に、新しい専門性が育つ。新しい技術はある日突然ひらめきで生まれるのではなく、目的を持った投資の積み重ねの先に立ち現れる、とAutor氏は説明する。

研究の出発点にあったAIについて、Autor氏は慎重な姿勢を崩さない。影響を見極めるにはまだ早すぎるとした上で、鍵を握るのは使い方だと話す。たとえば医療では、人の仕事をそのまま自動化して消してしまう使い方もあれば、異なる専門性を持つ人がそれぞれ違う作業を担えるようにする使い方もある。後者のほうが社会には有益だが、市場がそちらに向かうとは限らない。米国の医療費の半分以上は公的資金であり、政策しだいで方向を動かす余地は大きいとAutor氏は見ている。

新しい仕事は、単に働き口を増やすだけでなく、希少な専門知識への新たな需要を生み出す。それが自動化に対する対抗力になる、というのが研究チームの結論だ。AIが何を奪い、何を生むのか。その答えは、過去の技術がそうだったように、社会がそれをどう使うかにかかっている。

関連情報

Collage of diverse work scenes: a robot with a light bulb, a person at a desk with a computer, a man typing on a vintage typewriter, and scientists at a lab bench.

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