
米シカゴ大学分子工学部のSihong Wang准教授らの研究グループが、皮膚に貼り付けたまま心臓の危険な不整脈をリアルタイムで検出・分析できる伸縮性のコンピューティングパッチを開発した。論文は2026年5月21日、Nature Electronics誌に掲載された。
現在のウェアラブル心臓モニターの多くは、センサーが取得したデータをBluetooth等でスマートフォンや病院のサーバーに送り、クラウド側で解析する方式をとる。Wang准教授は「遠隔コンピューティングは時間がかかりすぎて現実的でない。心臓の電気的な異常が命取りになる数秒の間に、体の上で処理できるコンピューターが必要だ」と述べており、データをデバイス上で即座に処理するエッジコンピューティング方式を採用した。
今回の研究でカギとなったのは有機電気化学トランジスタ(OECT)と呼ばれる素子だ。有機ポリマーで作られたこの素子は柔軟性があり生体適合性も高いため、従来から伸縮性デバイスの研究対象になってきた。しかし従来の素子は半導体製造で標準的なフォトリソグラフィー(UV光でパターンを焼き付ける加工法)と相性が悪く、大規模な集積が難しかった。研究グループはUV光を当てると固まるポリマーゲルを新たに設計してこの問題を解決し、1平方センチメートルあたり約1万個のトランジスタを伸縮性の基板に形成することに成功した。

開発したパッチは1.5倍に引き伸ばした状態でも動作し、心臓の電気的な興奮パターンをオンデバイスで処理して「ニューロモルフィック(脳型)コンピューティング」と呼ばれる解析を行う。心室細動(心臓が正常に拍動できなくなる致死的な不整脈)に関連する異常な電気波面のパターンを99.6%の精度で識別した。また、コレステロール値・血糖値・心電図・最大心拍数といった個人の健康情報を入力して心臓発作のリスクを評価する小型のニューラルネットワークを組み込んだテストでは83.5%の精度を達成した。
Wang准教授のグループは現在、このコンピューティングアレイを伸縮性の無線通信モジュールと高精度センサーに統合し、完全な体装着型ヘルスプラットフォームへと発展させる研究を進めている。

