
中国の南京郵電大学を中心とする研究チームが、動く部品を一切持たずに飛ぶ36.7mgのマイクロロボットを開発した。プロペラも羽ばたき機構も使わず、電極間に生じる風だけで浮く。持ち上げられる力は自重の5倍にあたり、姿勢を測るセンサーを載せたまま1時間の停止飛行に成功した。材料費は0.10ドル、日本円で約16円に収まる。
推進に使うのはイオン風と呼ばれる現象だ。細い電極に高い電圧をかけると周囲の空気の分子が電気を帯び、電界に引かれて反対側の電極へ流れる。その途中で中性の分子を巻き込むため、全体として風が生じる。羽根が回るわけでも翼が動くわけでもないので、高い周波数で往復する部品が要らない。構造が単純になり、軽くなり、音も静かになる。
これまでのイオン風ロボットは、自重の3倍程度しか持ち上げられなかった。センサーひとつ載せるにも足りず、実用から遠かった。研究チームは電極の間隔を実測で詰め、内側の集電極どうしを1.5mm、外側を3.5mm離した配置に落ち着いた。内側1.5mmのとき風速は毎秒2.0m、推力は0.31mNになる。12×12×4mmの推進器1個あたりで見ると、体積あたりの推力はエアバスA320の17倍にあたる。
推進器4個を十字に並べ、それぞれの推力を変えることで機体を傾ける。中央には30mgの慣性計測ユニットを載せ、姿勢を読みながら制御を返す。閉ループの制御を入れた結果、機首の上下方向の誤差は83.11%、左右方向は89.21%下がった。給電線をつないだ状態でなら1時間浮き続ける。同種の1g未満の飛行ロボットは、停止飛行が10秒を下回るものが多い。
作り方も意図して単純にしてある。骨組みには厚さ50μmの金属を蒸着したPETフィルムを使い、レーザーで切った層を重ねて組む。チタンで作った場合と比べて質量は60%以上減った。組み立てにかかる時間は30分未満で、基板とセンサーの搭載まで含む。研究チームはこの安さと速さを、群れで飛ばす運用の前提と位置づける。
積載に余裕があるため、画像センサーと光ファイバーの格子を使うセンサーを載せた状態でも飛べる。研究チームは狭い空間の監視や災害現場の探索、危険な環境の調査を想定する。成果は2026年8月8日、学術誌Nature Communicationsに掲載された。

