
火災が起きた室内に水を撒くのではなく、人間には聞こえない低い音波を浴びせて炎を消す——。米Sonic Fire Tech(本社:オハイオ州クリーブランド)は、この音響消火システム「Sonic Home Defense」の販売と設置を進めている。共同創業者でCEOのGeoff Bruder氏は元NASAの音響エンジニア。同社は2025年10月16日に350万ドル(約5億6000万円)のシードラウンドを調達したと発表し、Khosla VenturesとThird Sphere、AirAngelsが共同リードした。
仕組みの核心は、20Hz以下の周波数(人間の可聴域以下)の音波で炎を抑える「インフラサウンド消火」だ。火が燃え続けるためには、燃料・熱・酸素の3つが揃う必要がある。低周波の音波は周囲の空気を激しく振動させ、燃料表面で酸素が安定して反応するのを妨げて燃焼の連鎖反応を断ち切る。同じ原理は学術的には以前から知られていたが、家全体や施設規模で実用化する動きはほぼなかった。
Sonic Fire Techの装置は、車のエンジンと似たレシプロ式ピストンを電動モーターで駆動し、約61cm(2フィート)のピストンを往復させて低周波の音波を生み出す。家庭向けシステムの消費電力は約500Wで、停電時は鉛蓄電池で動作を継続する。屋根の棟と軒下に剛性ダクトを通し、棟からは落ち葉や火の粉から発火する小規模火災を、軒下からは外壁近くの炎を、それぞれ狙う。現状の有効到達距離は約7.6m(25フィート)で、より大型のシステムでは約100m(330フィート)まで届くとしている。
製品は住宅向け「Sonic Home Defense」、消防士の野外活動向けポータブル版「Sonic Backpack」、データセンターや送電設備など重要インフラ向けの3種類。設置価格は住宅価格の約2%が目安で、保険会社との対話も進めている。CES 2026 Innovation Awards Honoree(スマートホーム部門)に選ばれたほか、ロサンゼルス郡で初めて建築許可が下りた3Dプリント住宅の任意の防火システムとして採用された。実証ではPG&Eおよび南カリフォルニアエジソンと組み、電力設備での試験も進めている。
ただし業界での評価は固まっていない。米国の住宅向けスプリンクラーには「NFPA 13D」と呼ばれる長年運用された基準があり、Sonic Fire Techが主張する「同等性」を認めるには管轄当局による技術文書の評価が必要となる。バークレー校のMichael Gollner教授は「音響だけでは初期段階を超えた炎の制御は難しい」とする2018年の論文を引きつつ、実証データの提示を求めている。

