
自作PCでファンの向きを決めるとき、上から冷たい空気を入れるか、内部の熱い空気を外へ押し出すかで迷う。ドイツ語圏のフォーラムでは後者を勧める根拠として「煙突効果を使え」という助言がよく出る。der8auer氏は、その俗説を実験で確かめた。
まず同氏は言葉を整理する。暖かい空気が上に昇るのは自然対流であって、煙突効果とは違う。煙突効果は垂直の囲いや筒を通り抜ける大きな空気の流れを指す。囲いの中の暖かい空気は周囲より密度が低いため、下部と上部の間にわずかな圧力差が生まれる。その差で下から冷たい空気が吸い込まれ、上から暖かい空気が抜けていく。高さか温度差が増えると効果は強まるが、成立には囲いが要る。
PCケースを囲いと見立てて計算すると、高さ55cm、室温20℃、内部40℃という条件で圧力差は0.4Paにとどまる。どれほど小さいかを示すため、同氏は水柱を例に挙げる。高さ1mの水は底に0.1barの圧力をかけるが、0.4Paに相当するのは水を0.04mmだけ入れたときの圧力で、髪の毛の太さにも届かない。指で触れて分かる圧力ではない。
そこで囲いを自分で作った。装置は水冷で、AMDのCPUをPBOで設定して消費電力を100Wに固定し、発熱を一定に保つ。240mmのラジエーターをファンなしで置き、下から空気が入るようスタンドオフで少し浮かせた。煙突はPLAで3Dプリントした巨大なシュラウドで、1個20cmのものが6個と10cmが1個ある。すべて積めば1m30に達する。隙間ができないようM4ネジで締めた。

1時間20分で水温は61.5℃に落ち着いた。まず10cmを1個載せると、それだけで下がり始めた。同氏はこの時点で予想外だったと話す。20cmを足して合計30cmにすると、室温は21.5℃のまま変わらないのに水温は2℃以上下がり、待つうちに6℃の改善に達した。
最後に80cm分をまとめて載せ、全体を110cmにした。天井近くまで届く高さで、積んで5分たたないうちに5℃下がる。ここまで来るとスモークマシンの煙が下から吸い込まれる様子もはっきり見えた。CPU温度は90℃を超えるピークから約72℃まで落ちた。さらに30分置いた最終結果は、水温が19℃近く低い状態だった。
同氏は結論をはっきり分けている。得られた結果は煙突を建てたからであって、PCケースの中で同じことは起きない。ケース内にあるのは暖かい空気が昇る自然対流までで、ファンがそれぞれ別の向きに吹き、空冷のグラフィックスカードが1枚入るだけで流れは崩れる。最初の10cm分に相当する効果までは得られるかもしれないが、そこから先は別の話になる。

