
スマホやAIの計算を支えてきたシリコンは、微細化が限界に近づいている。その先を担う材料として期待される、原子3個分ほどの薄さの2次元半導体、二硫化モリブデン(MoS2)で、1433個のトランジスタを集めた動作する小さなコンピューターを、南京大学(中国)のXinran Wang氏らの研究チームが作った。成果はNature Electronicsに2026年5月26日に掲載された。
二硫化モリブデンは、モリブデンの層を硫黄の層で挟んだ、ごく薄いシート状の半導体だ。シリコンよりはるかに薄く作れるため、微細化が難しくなった先の電子回路や、省電力なAI向けの計算機に向くと期待されてきた。ただ、これまでは単体の素子や小さな回路にとどまり、多くのトランジスタを安定して並べる大規模な集積が難しかった。
壁になっていたのは、原子レベルの欠陥や素子ごとのばらつきと、それを見越した設計手法の不在だった。研究チームは、トランジスタ、回路の部品、論理の組み立て、配線の各段階をまとめて最適化する手法を編み出した。製造では、0.5μmの産業用プロセスと、その上に回路を積み上げる研究室の技術を組み合わせた。
できあがったコンピューターは、1433個のトランジスタを4層の金属配線でつないだもので、面積あたりの密度は1平方ミリメートルにつき約9336個に達する。チップ上のレジスタにデータを保ち、複数ビットのデータをまとめて計算できる。動作の速さは1kHz(毎秒1000回)と控えめだが、2次元半導体で実用的な回路規模に踏み込んだ点に意味がある。
現行のシリコン製チップは数十億個のトランジスタを積むため、1433個はまだ小さい。それでも、数百個どまりだった2次元半導体の集積を一段押し上げた。研究チームは、省電力なAI計算を支える持続可能な技術の土台になるとしている。

