
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、トランジスタとして働く細菌を開発し、寒天培地の上に印刷して回路を組み立てた。トランジスタは電気回路で電流を流したり止めたりするスイッチにあたる部品で、生物版では細菌が小さな分子の流れを制御する。作った菌株は5種類で、培地の上での並べ方を変えるだけで別の演算をこなす。遺伝子を作り替える必要はない。研究チームは、植物の葉や根を覆って乾燥や害虫の被害を感知し、応答させる使い方を思い描いている。
合成生物学では、目的の分子を検知して別の物質を作らせるといった働きを、1つの細胞の中に回路として作り込むのが一般的だった。ただし、この作り方は途中で頭打ちになる。回路の中で信号が混ざらないようにするには、部品ごとに別々の転写因子(遺伝子のスイッチを担うたんぱく質)を割り当てなければならない。使える転写因子の数は限られており、1細胞に組める回路の複雑さはそこで止まる。回路を詰め込みすぎれば、細胞がたんぱく質を作る仕組みそのものに負担がかかる。研究チームは回路全体を1細胞に入れるのをやめ、細胞1個をトランジスタとして設計し、それを組み合わせて回路を作る道を選んだ。
使ったのはPantoea agglomerans、植物の表面などによくいる細菌だ。OC-6と呼ぶ分子でスイッチが入るものと切れるものの2種類のトランジスタを作り、どちらもOC-12という別の分子があるかどうかを見る。スイッチの状態と対象分子の有無の組み合わせで、OHC-14を出すかどうかが決まる。さらに3種類の菌株にリレーの役目を持たせ、OHC-14を次のトランジスタが受け取れる形へ変換させた。分子はどの方向へも拡散するが、このリレーを挟むと信号が一方向にだけ流れる。
回路を組むときは、音響式のリキッドハンドラーで5株のコロニーを寒天の表面に印刷する。コロニーどうしの間隔は約5mmで、信号は隣のコロニーにしか届かない。間隔そのものが配線の役目を果たす。設計したのは、多入力多出力の論理回路のほか、1つの入力を制御信号に応じて複数の行き先へ振り分けるデマルチプレクサ、2進数の足し算をする半加算器と全加算器だ。最大の回路は2つの入力を足すもので、24個のコロニーをつないでいる。
ただし1回の計算には約8時間かかる。上級著者のChristopher A. Voigt氏は、コンピューターを置き換えるのではなく生物の側に計算の制御を持ち込むのが狙いだと説明する。植物の根に細菌がいる状況なら、一晩かけて簡単な計算をしても生育期の長さに対しては十分速いと見ている。農業で使うなら、根に施した回路がストレスを検知して殺菌剤の合成を促す形になる。研究資金の一部は米国のDARPA(国防高等研究計画局)とIARPA(情報高等研究計画活動)が拠出した。画像とデータの解析に使ったコードはGitHubで公開されている。成果は2026年8月17日、学術誌「Nature Chemical Biology」に掲載された。
関連情報
MIT engineers connect bacteria to create living transistors(MIT News)
Living circuit boards built by printing bacterial transistors(Nature Chemical Biology)

