
三菱ケミカルグループは2026年11月5日、2月に撤退を決めていた炭素材事業を続けると発表した。対象は子会社の三菱ケミカルが香川事業所(香川県坂出市)で作るニードルコークスとピッチコークスで、同じ事業所で作るピッチ系炭素繊維の原料を自社で確保するためだとしている。同社は判断の背景に、AIとデータセンターに関わる事業の急速な拡大を挙げた。
ニードルコークスとピッチコークスは、どちらもコークスを作る過程で出るコールタールを原料にする。同社の製品情報によると、ニードルコークスは鉄くずを溶かす電気製鋼炉の電極の材料になる。ピッチコークスは半導体や太陽電池パネルの製造設備に使う特殊炭素材の原料だという。
同社は2月2日、炭素事業のうちコークスと炭素材から撤退すると発表していた。当時の説明では、中国の過剰生産やインドネシアでの大規模な新設備の稼働で世界的に供給が余り、海外のコークス市況の低迷が長引いていた。同社は炭素材をコークス炉の稼働を前提に作っており、コークスの生産をやめると炭素材のコストにも直接響く。こうした理由から両方からの撤退を決め、2027年度下期に生産を止める計画を示した。同社は撤退に伴う非経常損失を約850億円と見込んでいた。ピッチ系炭素繊維とその関連製品、電池の負極材は当時から撤退の対象外だった。
ピッチ系炭素繊維は石炭や石油から得るピッチを原料にする炭素繊維だ。同社は当初、撤退後は他社の原料で炭素繊維を作る前提で検討を進めていた。しかし他社の原料では、同社が目標とする性能に届かないことが分かった。同社は、炭素繊維の競争力を保つには原料の製造技術と設備を社内に残すことが欠かせないと判断した。
同社は今後、ピッチ系炭素繊維を5G/6Gの通信インフラやAIサーバー、データセンター向けの熱対策の用途に広げるとしている。同社が「超高熱伝導」とうたうピッチ系炭素繊維「ダイアリード」の製品資料では、熱伝導率は最大1300W/(m・K)だ。同社は高い弾性率と寸法の安定性を生かし、宇宙関連の用途にも展開する。
炭素材の設備は改修のため2027年度下期に生産を一時止め、2028年度下期に再稼働する見込みだ。同社は炭素材を買っている顧客と、今後の取引を個別に相談するという。コークスからは当初の方針どおり撤退し、2027年度下期に生産を止める。同社は撤退に向けて前年度に約597億円のリストラクチャリング引当金を計上していた。今回の決定で設備の撤去費用と特別退職金の一部が不要になる見込みとなり、2027年3月期第3四半期に約90億円を非経常利益として戻し入れる。

