
米ブルックヘブン国立研究所(BNL)の機能性ナノ材料センター(CFN)が、専用設計の走査透過型電子顕微鏡を導入したと2026年7月27日に発表した。エネルギー分解能は既存の顕微鏡の200倍に達し、材料の原子配列と化学的性質、電子的な振る舞いを1台で結び付けて調べられる。電池や量子材料、マイクロエレクトロニクスの研究に使う。
この装置が目指したのは、大型放射光施設でしかできなかった測定を電子顕微鏡に持ち込むことだ。同研究所の先進電子顕微鏡グループを率いるYimei Zhu氏は、放射光ビームラインの機能を電子顕微鏡の上で使えるようにするのが長年の夢だったと述べ、ケンブリッジ大学のL. M. Brown教授が約30年前に示した「顕微鏡の中の放射光」という構想を引き合いに出した。
新しい機能は4つある。1つ目は、二次電子検出器を2基備え、試料の上面と下面を同時に原子レベルで観察できる点だ。通常の透過型電子顕微鏡では捉えられない表面の詳細を、内部構造と合わせて確認できる。触媒の研究で威力を発揮する。化学反応は材料の表面で起きるためで、CFNの電子顕微鏡グループを率いるJudith Yang氏は、反応の前後で触媒の両面を調べることで、構造の変化と化学的な性能の関係をより完全に理解できるとしている。
2つ目は、電子エネルギー損失分光(EELS)の測定範囲だ。EELSは、試料を通り抜けた電子がどれだけエネルギーを失ったかを測る手法で、新しい光学設計により測定できるエネルギーの幅が5倍以上に広がった。遷移金属元素を調べられるようになり、充放電中の電池内部で化学結合がどう変わるかといった観察に使える。
3つ目が、200倍という数字の中身にあたる。独自のエネルギー選別機構により、エネルギー分解能が既存の顕微鏡の200倍になった。これによって、運動量を分解したEELS測定が可能になる。フォノンやマグノン、プラズモンといった、材料が熱を伝える仕組みや磁場への反応、光や電気との相互作用を決める現象を観察できる。次世代の材料開発や量子計算の研究に直結する。
4つ目は動作電圧の幅だ。多くの電子顕微鏡は100〜300キロエレクトロンボルトで動くが、この装置は20キロエレクトロンボルトまで下げられる。Zhu氏は、この電圧は原子数層の厚みしかない2次元量子材料のために設計したと説明する。電圧の低い電子は散乱しやすく、しかも試料への損傷を抑えられるためだ。
装置の導入に携わったSooyeon Hwang氏(現・東国大学校准教授)によると、最先端のX線イメージングでも空間分解能は数十ナノメートル程度にとどまるのに対し、電子顕微鏡は原子スケールの情報を得られる。制御ソフトウェアはPythonベースで、遠隔操作にも対応し、機械学習を使った自動計測への発展も見込む。CFNには2台目の新型電子顕微鏡も届く予定だ。

