
富山大学学術研究部工学系の森本勝大教授、本田裕哉氏、中茂樹教授らの研究グループが、有機ELの発光層を高度に結晶化させる技術を開発した。厚さ50nmの薄膜のなかに約1mmという巨大な単結晶を作ることに成功し、従来のアモルファス素子と比べて同じ電圧での電流密度が最大1000倍に向上した。成果は国際学術誌『Synthetic Metals』に2026年7月1日付でオンライン掲載された。
現在市販されている有機ELの多くは、発光層の分子がバラバラの向きで並んだ「アモルファス」と呼ばれる状態にある。真空蒸着で薄膜を作ると自然にこうなるためだ。一方、分子が規則正しく整列した結晶状態では、分子同士の重なりが大きくなって電気が流れやすくなる。材料本来の性能を引き出すには結晶化が望ましいが、実用的な素子構造を保ったまま結晶にするのは難しかった。
結晶を作る一般的な手法にエピタキシャル成長がある。下地となる基板の結晶配列に合わせて膜を育てる方法だが、特殊な基板が必要になるため有機ELには使いにくい。研究グループはこの手法に頼らず、ガラス転移温度の低い下地層と独自の2段階熱処理を組み合わせることで、基板全体にわたる結晶膜の形成にたどり着いた。
使った材料はルブレンだ。単結晶の状態では有機材料のなかで最高のキャリア移動度を持つことで知られる一方、通常の真空蒸着ではアモルファス膜になりやすい性質があった。今回の手法により、この材料の持ち味を薄膜デバイスのなかで引き出せるようになった。
性能の向上は数字に表れている。1Vの電圧をかけたとき、結晶化した素子はアモルファス素子の最大1000倍の電流を流した。発光が始まる電圧は1.33Vと低い。加えて、発光スペクトルが鋭くなることも確認された。単一の遷移双極子モーメントに由来する純粋な発光が得られたためで、色の純度が高まることを意味する。
研究グループは、この成果が有機EL産業における結晶OLEDへの転換を後押しするとしている。想定する応用先は、次世代の超高輝度ディスプレイや、大きな電流を流す必要があるデバイスだ。シリコン半導体産業が結晶の構造を精密に制御することで発展してきたのと同じ道筋を、有機ELもたどるという見方を示した。
研究は科学研究費助成事業の一環として実施され、ほくぎん若手研究者助成金、日揮・実吉奨学会、マツダ財団の支援を受けた。

