
米コーネル大学の研究チームが、マイクロ波の物理現象で計算するチップに、情報を独自の符号へ変換させる手法を開発した。熱帯低気圧の衛星画像を再構成する試験では、主要な特徴を保ったまま送信するデータ量を約8分の1に減らした。成果は2026年7月29日、学術誌Nature Communicationsに掲載された。
土台になっているのは、同チームが1年前に発表した集積型のマイクロ波ニューラルネットワークだ。Bal Govind氏が設計し、Maxwell Anderson氏とともに実証したこのチップは、数十ギガヘルツ帯のマイクロ波がもつ物理的な振る舞いを使って、脳が得意とするパターンの検出をほぼ瞬時にこなす。
今回の研究で加わったのが、マイクロ波トークン埋め込みと呼ぶ仕組みである。トークンは大規模言語モデルが文章を扱うときの最小単位を指し、チップはそれに似た形で、メッセージを電波へ符号化してデータを圧縮する。ドローンや衛星への航法指令といった情報を、情報どうしの関係を保ったままマイクロ波パルスのトークンへ変える。
従来の通信機器は、アナログの電波をいったんデジタルデータへ変換してから必要な情報を取り出す。変換の手順を踏まないぶん、帯域もエネルギーも少なくて済む。研究を主導したGovind氏は、物理に仕事をさせていると表現する。コンピューターのコードを1行送る代わりに、その指令を数個のマイクロ波パルスで表せて、同じ種類のネットワークが即座に解釈できるという。
チップは個体ごとに物理的な特性が異なり、多数の周波数を生み出す。こうした性質はハードウェアによる情報保護にも使えると研究チームは考える。送信内容を解読するには同型のマイクロ波ニューラルネットワークが必要なうえ、そのネットワークを設定した正しい順序も要る。Govind氏はこれを公開鍵と秘密鍵の仕組みに近いと述べている。同氏は、あるマイクロ波ニューラルネットワークが、同じ種類のものにしか理解できないメッセージを送る状況を、マイクロ波の語彙を作ることになぞらえた。
データ量の削減を支えるのは、確率的ビットと呼ぶ現象だ。毎秒ギガビット級のデータをチップへ流し込むと、値が0か1に固定されず入力次第で変わるビットが自然に生じる。研究チームはこれを使って熱帯低気圧の衛星画像を再構成し、約8分の1のデータ量で主要な特徴を残した。
Govind氏は、小型衛星が電力の制約と米連邦通信委員会(FCC)が定める帯域の規制のために大きな画像ファイルを地上へ送れず、GPS座標のような単純な情報しか送れないために主要な特徴が失われている現状を挙げ、そこを助けられると考えているとしている。
研究チームは特許を出願中で、コーネル大学の技術ライセンス部門が運営する事業化支援プログラムに参加している。低消費電力の衛星通信とエッジコンピューティングでの実用化を目指す。研究は防衛・情報技術企業L3Harrisとの長年の協力と、学内のフェローシップの支援を受けた。

